近藤恵子(「女のスペース・おん」世話人代表)
ドメスティック・バイオレンスの被害を受ける女性や子どもたちのサポートに
かかわって思うことは、つくづくこの世が理不尽にできあがっているということ
です。
ときには生命すら脅かされる暴力・虐待に長年苦しみぬいた被害当事者が、そ
の鎖を断ち切ろうとするとき、なぜ、なにもかもを捨てて逃げ惑わなければなら
ないのか。修学旅行をあきらめ、大好きな友だちに「さよなら」も言えず、見知
らぬ土地で偽名を使わなければならないのか。職業キャリアを捨て、ローンを払
い続けた家を捨て、身内との連絡を断ち、人間関係を寸断されなければならない
のか。捜索願いにひっかかることを恐れて免許証の書き換えをあきらめ、健康保
険証が使えないばかりに高額の医療費を支払い、保証人をたてられずにアパート
を決められず、住民票の提出を求められて就職を棒に振らなければならないの
か。離婚の成立後でさえも、執拗につきまとう加害者に脅え続けなければならな
いのは、なぜなのか。
ドメスティック・バイオレンスが犯罪であり、刑法上のあらゆる犯罪にまし
て、より深刻で重大な犯罪であることを、サポートシェルターの現場から訴え続
けてきました。ようやく、この問題が社会的に認知され、女性への暴力の根絶と
いう課題が政策にのぼってきたとはいえ、逃げ続けることによってしか再出発を
はたせない被害当事者の情況に変わりはありません。
女たちの支えあいによるネットワークが、何万、何十万の女性を生き延びさせ
られたとしても、暴力をふるい続ける男性の行動が変容しないかぎり、この問題
の解決はありません。加害者を逮捕・拘束し、処罰・再教育するための法整備
が、なににもまして急がれています。
ドメスティック・バイオレンスは、私たちが暮らすこの社会が構造的につくり
だした犯罪です。一刻も早く防止法を制定し、いまや戦場と化している「家庭」
から、個人の尊厳を取り戻していかなければなりません。