東ティモール問題と民主党のPKO改革案について

                  札幌東ティモール協会   高橋奈緒子

 今年から来年に変わる際、西暦では新しい千年紀が始まるらしい。それに合わせる かのように何でも新しくするのが流行っているようだ。国のかたちを新しくする議論 も盛んだ。『21世紀』に向かっての国つくりらしいが、新しい世紀になると今までの 価値や理想はすべて古くて使い物にならなくなるのだろうか。1999年から2000年に 変わる時も、コンピューターの誤作動『2000年問題』で大騒ぎしたが、それほどのこ とはなかったようだが。

 民主党の鳩山代表も「責任と共生とが織りなす21世紀、日本の新しい国づくりにチ ャレンジ」★1するため、日本国憲法やPKO活動の見直しも進めているようだ。日本 国憲法やPKO活動も『21世紀』を向かえるためにはデパートの如く、リニューアルし なければならないのだろうか。

 鳩山代表の最近の発言が私の注意を引く理由はただ一点で、「PKO改革」、特に「 自衛隊の本体業務参加」が語られる時、必ずと言って良いほど『東ティモール』が引 き合いに出されることだ。鳩山代表に限らず、東ティモール問題に対する民主党議員 の発言にはしばしば耳を疑う。

 昨年の東ティモールの独立を問う「住民投票」直後からの「騒乱」で国際軍が派遣 されてから1ヵ月後の10月19日、民主党の菅直人政調会長は新聞のインタビューに応 じ、個人的な見解としながらも「東ティモールでは紛争当事者の合意などが必要なPK O『参加五原 則』が適用できないので、東ティモールに関するPKO特別法を制定し、 参加を認めることも検討すべきだ」と述べた。

 1999年11月日本政府は、インドネシア軍と民兵によって西ティモールに強制的に 移送された東ティモール人難民救援に、自衛隊機を飛ばすことを決めた。西ティモー ルのクパンまで飛ぶことになった自衛隊機を、東ティモールの首都ディリまで乗り入 れるように外務大臣に要請したのは、東ティモールの視察から帰国したばかりの江田 参議と羽田衆議だった。

 そして今年9月25日、森内閣総理大臣の所信表明演説に対する代表質問で鳩山代表 は昨年、東ティモールの「騒乱」や「人権侵害とインドネシアの不安定化という見過 ごすことのできない事態」に「わが国の法律や憲法のもとでは東ティモールのPKOに 自衛隊を派遣することはできなかった」とことに触れ、PKO参加五原則見直しの必 要性を強調した。12月に民主党が出したPKO改革案は昨年の東ティモールのケース を念頭の置いた「紛争当事者の停戦合意の成立」などの基準を緩和することが柱とさ れた。

 東ティモールに関わってきた者のひとりとしては、民主党が東ティモールに関心を 寄せてくれることはありがたいが、自衛隊海外派兵の突破口に使われるのは甚だ遺憾 だ。

1975年、インドネシアの東ティモール侵略以来、東ティモールの人々は日本の政治 的影響力の行使は求めてはいたが、「武力による紛争の解決」は望んでいなかった。  99年9月の「騒乱」と言われる事態は確かに、「国際軍」の軍事介入で鎮静化し、 多くの住民を救出した。しかし、インドネシアに影響力のある有力諸国、殊に日本は 東ティモールに軍事介入が必要な事態を招く前に、インドネシアに圧力をかけること で「騒乱」を阻止する力を持っていた。東ティモールの人々は日本が国際軍に参加し なかったことより、インドネシアに対し何ら有効な行動をとらなかったことに失望し ただろう。そして今、政治的解決能力のなさを軍事力で埋めようとする口実に東ティ モールが利用されようとしていることを知ったら、果たしてどう思うだろう。

 東ティモールでも新しい国つくりがすすんでいる。「ミレニアム」とかいう浮かれ た流行にのった訳ではなく、400年にわたるポルトガル植民地、第二次世界大戦中の 日本の占領、25年間のインドネシアの不当な占領に昨年、終止符が打たれたからだ。 「ゼロ以下、マイナスからの出発」は難行してはいるが、確実に進んでいる。今年 9月、東ティモールの暫定内閣は独立後の国防体制を決めた。国防軍(Securty Force)は唯一の武装抵抗軍としてインドネシアの占領と闘ってきたファリンティル を中心とした1500名の専門専属兵士と同数の志願予備兵からなる。

 これまで独立運動の指導者たちや来日した東ティモール人たちは「独立した東ティ モールは軍隊を持たない国にしたい」と語ってきた。95年、東ティモール人女性のマ リア・ド・セウはグアテマラの空港で、コスタリカの航空機を指して「コスタリカに は軍隊がない」と私に教えてくれた。1997年、ノーベル賞受賞後に来日したラモス・ ホルタは講演で「独立したら日本の憲法を見習いたい」と述べた。99年10月、「騒 乱」から避難するかたちで来日したニノ・ペレイラも「闘いはもう十分」と非武装の 国を熱望していた。

 しかし、独立を手にした99年11月、独立運動の指導者シャナナ・グスマンはイン タビューで、従来主張してきた「非武装中立」について「違う方 向を考えるようにな った」「新生国家の安全保障は政治的な善意だけではやっていけず、現実的にしなけ ればならない」と語った。苦渋の決断だったことだろう。

 東ティモール人々の口から「日本の憲法を手本に」という言葉を聞くたびに「軍隊 を持たない日本」の実態を知っているものとしては苦々しい思いで聞いていたが、戦 争の世紀が終り、『21世紀の最初にできる国』にふさわしい国のかたちを楽しみにし ていた。

 「武力による紛争の解決」がけっして有効でないことを東ティモールの人々は良く 知っていたからだ。

 国防軍の基礎となる元抵抗軍のファリンティルは、司令官のシャナナの下、抑止力 があり、統制が取れ、テロ行為や住民を巻き込んだ戦闘を行うこともなく、これまで 闘わないことで勝利を得た。インドネシア軍と民兵による破壊と虐殺の嵐が吹き荒れ た昨年9月でさえ、闘わないことで生き抜き、山に避難した住民を守った。もし、イ ンドネシア軍とそれに後押しされた民兵に応戦していたら「東ティモール人同士の内 戦」というインドネシアの仕掛けたシナリオを演じることになることはわかりきって いたからだ。

 そんなファリンティルが中心となる国防軍だから希望はあるかもしれない。元最高 司令官のシャナナは初代大統領と目されている。本人は固辞しているが、それは昨年 、首藤衆議が雑誌の中で述べたような「武装闘争の過程で人をあやめた事への後悔か ら」といった理由からではない。ファリンティルは独立運動の英雄で住民の誇りだ。  「軍隊を持たない国」として手本になるような行動を何ひとつできなかった国が、 建国の理想の一つを諦めたことに何も言う資格はない。どんな軍隊になるのか見守り たい。

 ITバブルを謳歌するアメリカは最近、PKO活動に消極的だ。ソマリアの失敗以来、 遠い異国の異民族のために血を流したり、莫大なコストを払うことを納税者が嫌がり 始めたからだ。東ティモール問題には、インドネシアに軍事援助の凍結を迫るなど政 治的影響力を行使したり、インドネシア政府を非難する発言は続けているが、国際軍にもPKOにも部隊は派遣していない。

 アジア太平洋地域でそれを補完しようとしているのはオーストラリアだ。今年12月 に発表されたオーストラリアの『国防白書』によれば、国防予算は10年間で235億豪 ドルの追加し、今後10年間で年平均3%の増加を見込んでいる。東ティモールを含む 周辺地域への派兵で、陸軍の戦闘要員や技術専門家が不足し予備役を積極的に実戦に 投入するようだ。

 このことをオーストラリアの納税者が歓迎しているのかどうか私は知らない。

 東ティモールの新しい国つくりは難行している。大人数の国連兵士の駐留、外国人の 滞在で二重経済が作られ、売春が行われ、ストリートチルドレンが生まれている。貧 しいアジアの普通の国になろうとしているにすぎないといえばそれまでだが、21世紀 最初に誕生する新しい国は「普通の国」になって欲しくないと思っている。日本は「 ひたすらアメリカに依存し、世界の国々からの信頼を失う」★2ことのないよう、ア メリカが撤退しようとしているアジアで「国軍」を持つ「普通の国」になりたいのだ ろうか。

★1 ★2 いずれも9月25日の森内閣総理大臣の所信表明演説に対する鳩山氏代 表質問より引用

 


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